【令和5年度 宅建士試験第1問解説(速報版)】

令和5年度宅建士試験、お疲れさまでした。今年も昨年と同様の始まりでしたね。権利関係第1問は、冒頭で判決文を示したうえで、各肢との整合性を問うという昨年の出題形式の焼き直しです。過去問学習の徹底が国家試験攻略の定石ではありますが、ある年からいきなり出題傾向が変わるということも起こり得ることです。そんななかで、またしても昨年と同様の聞き方をしてくれたわけですから、試験委員は決して受験生に意地悪をしようとしているわけではないということをご理解いただけると思います。どんなにしっかり準備しても、やはり本番は緊張するものです。第1問を見て、これまで自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだと安心できるくらい準備しておくのが理想的ですね。
内容的には、蒼天基本講義で再三お伝えしてきたとおりです。過去問頻出知識以外の部分については、試験委員の要求は条文知識を超えるものではありません。条文を知っているだけで肢2と肢3は消えてしまいます。まず、被相続人の死亡によって、被相続人と相続人がフュージョンするとお伝えしましたよね?相続人が複数であれば、相続人全員と被相続人がフュージョンします。財産について見れば、被相続人の遺産が、被相続人の単独所有から、相続人全員の共有関係に移行するということです。複数の相続人がいる場合は、各自の相続分に応じて共有持分を有することになります。
ただ、この遺産共有状態は、遺産分割によって誰が何を相続するかが確定するまでの暫定的なものです。これを確定させるために、相続人全員で遺産分割協議を行うという流れですね。そして、事実としては、遺産分割によって誰が何を相続するかが確定するわけですが、法律上は、原則として、被相続人が死亡した時点から、遺産分割によって決められた遺産の分け方どおりに相続人が遺産を承継したことになります。ここまでが肢2と肢3のお話です。いずれの肢も、ほぼ民法の条文のコピペですから、判決文の内容に関係なく、民法の規定によれば誤っているとはいえませんよね?ゆえに、条文知識だけでこの2つの肢を消去できます。

問題は、肢1と肢4のどちらを選ぶかですが、こちらの図をご覧ください。被相続人の死亡時から遺産分割によって遺産の帰属が確定するまでは、各自の相続分に応じた共有状態となります。緑色の矢印の部分ですね。そして、遺産分割の効果は、原則として、相続開始時、すなわち、被相続人の死亡時に遡って生じます。いわゆる遺産分割の遡及効です。
ここまでは、被相続人の死亡から遺産分割までの期間のお話でしたが、遺産分割の後はどうなりますか?その点について言及しているのが肢4です。遺産分割によって複数の相続人のうちの1人が、ある不動産を相続することになったということは、遺産分割以降は、その不動産はその相続人の単独所有となるということですよ。遺産分割までは、相続分に応じた共有状態が続いていたけれど、暫定的な所有関係を遺産分割協議によってその相続人の単独所有に移行させたということです。そうであれば、遺産分割後に生じた賃料債権は、その相続人が取得するということになりますよね。
あなたが一棟のマンションを所有していたとします。それを誰かに貸したとしましょう。賃料債権は、当然、あなたに帰属しますよね?遺産分割後は、それと同様に考えられるということです。相続から遺産分割に至るまでの流れを民法の条文に即して理解できていれば、肢1を自信をもって判断できなくても、消去法で肢1をマークできますね。つまり、冒頭の判決文を知らなくても正解できるわけです。ただ、これはあくまでも結果論ですので、問題文はきちんと正確に読んでくださいね。蒼天基本講義でも指摘しておきましたが、やはり今年も問題文の要求に素直に考えることを求められる現場思考型の問題が出題されていますからね?
最後に肢1も考えてみましょう。判決文の1行目は、肢2でも問われた遺産共有のお話ですね?ここは本題に入る前の前提部分です。遺産分割後に発生した賃料債権は、賃貸不動産を相続によって承継した相続人が単独で取得するというお話が肢4です。では、相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料債権は誰が取得するのでしょうか?判決文は、この期間の賃料債権は各共同相続人が相続分に応じて分割取得すると言っています。たとえば、1000万円の賃料債権が発生しており、4人の相続人の各自の相続分が等しいのであれば、1000万円割る4人イコール250万円ずつ取得するというイメージです。
では、肢1はこの点について何と言っているでしょうか?相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、遺産分割によって賃貸不動産を承継することとなった相続人が、相続開始時に遡って取得すると言っていますね?確かに、賃貸不動産については、被相続人の死亡により、いったん相続人全員の遺産共有状態に移行したうえで、遺産分割によって、相続開始時に遡って特定の相続人に帰属します。肢3のお話ですよ?
でも、この判決文が言及しているのは、賃貸不動産の帰属ではなく、賃貸不動産を貸したことによって生じた賃料債権の帰属についてです。そして、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産だから、遺産の最終的な帰属が相続開始時に遡って確定するという肢3のお話とは関係なく、そのお話の枠外で、各自の相続分に応じて分割取得することになりますよと言っているわけです。にもかかわらず、肢1は、賃料債権についても遺産分割の遡及効のお話で処理しているわけですから、判例及び下記判決文によれば、誤っていますよね?したがって、正解は肢1ということになります。
本問は、この判例を知っているかどうかを試す知識問題ではありません。ゆえに、もっと判例の知識を増やさなきゃなどと焦って学習範囲を広げる必要はありません。この判例を知らなくても、相続開始から遺産分割までの流れをきちんと学習したうえで、試験の現場で、判決文が言っていることを正確に分析し、肢1との整合性を試験の現場で判断できるだけの論理的思考力があれば、判決文と肢1の比較だけで正解することができます。おそらく、司法書士受験生レベル以上であれば、この方法で正解できるかたが多いでしょう。
他方、このような方法で肢1を瞬殺することが難しいかたであっても、民法の条文知識に加えて、相続から遺産分割に至るまでの基本的理解さえあれば、肢2から4を消去することによって肢1をあぶり出すことができます。試験委員は、不動産実務の担い手たり得る人材を登用するという明確な政策目的をもって試験問題を作成していますから、学習の方向性さえ間違えなければ、お時間のないかたであっても合格できる試験に仕上げてきます。本問も、宅建士試験の受験生としてやるべきことを丁寧にこなしてきたかたであれば、肢1がモヤモヤしたままであっても、正解することは可能だったでしょう。モヤモヤは、試験が終わった後に、お友達などとワイワイ騒ぎながら、「あーそういうことだったのか」と納得しておけば十分です。受験料を払っているわけですから、試験を受ける前よりも賢くなっておきましょう。
ところで、第1問を見て、「時間がなくて家族法は捨てちゃった・・・あぁ・・・やっぱりやっておけばよかった・・・」などと顔面蒼白になってしまったかたはおられませんか?万が一、あなたがそうだったのであれば、それは、試験委員の術中にはまっていることに気づく必要があります。試験委員は優秀な人材を登用しようとしています。意地悪をするつもりはないけれど、怠け者やお豆腐メンタルのかたには大事な仕事を任せられませんから、合格して欲しくないと考えています。ペーパー試験で試せるスキルは自ずと限られるとはいえ、知識以外の要素も可能な限り試されていると考えておきましょう。
なお、本テキストは、後日、図表等を追加したうえで、YouTubeでひかり先生に代読してもらいます。国家試験の第1問は、えてして、その年の出題傾向を象徴する問題になっています。まだ50問じっくり見てはいませんが、今年の第1問は家族法というマイナー分野からの出題とはいえ、前年の出題形式を踏襲しているわけですから、業法や法令科目も含めて、おおむね昨年と同様の問い方なのかなと想像しているところです(SNSなどの反応は一切見ておりません)。蒼天基本講義は、改正部分については、現状、条文だけを手掛かりにご説明していますが、あらためて、実務書に目を通したうえで内容を加筆・修正します(言わずもがな)。そして、その後に家族法を我が国の歴史と絡めながらご説明することになりますので、引き続き、よろしくお願いいたします。
蒼天は今後も宅建士試験に関するホントの話をお伝えしていきますので、チャンネル登録よろしくお願いいたします。
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